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あなたは予防しますか・・・ 治療しますか・・・?日常生活における 感染症予防の話 |
日 時: 2000年3月9日(木) 18:00〜20:00 〔開場17:30〕
場 所: 熊本市国際交流会館ホール
主 催/ (財)ヒューマンサイエンス振興財団、(財)国際保健医療交流センター(ACIH)、国立熊本病院
後 援/ 熊本県、熊本市、(社)熊本県医師会、(社)熊本市医師会
事務局/ (財)国際保健医療交流センター(ACIH)
主任研究者挨拶 国立熊本病院長 宮ア 久義エイズウイルスをはじめとして各種の新しい感染症(新興再興感染症)が急速に広がりつつあり、また、これまで減少の一途をたどっていた結核の感染が再び増加するなど、いわゆる再興感染症の広がりも脅威となりつつあります。
厚生省はこの危機にあたり、新興・再興感染症の研究事業を立ち上げ、その一つとして私どもが担当します「新興再興感染症のサーベイランスおよび感染症情報システムの導入に関する調査」研究が実行に移され、現在3年目を迎え成果をあげつつあります。
今般、ヒューマンサイエンス財団のご支援を受け、この研究成果を発表するとともに、広く国民の皆様に感染症について理解を深めていただくための講演会「日常生活における感染症予防の話」を開催することとなりました。
講演 (要旨):
1970年代初め、アメリカ合衆国のSurgeon General(公衆衛生局長官)のWilliam H. Stewart氏が『感染症の時代は終わった』と宣言しました。この頃、小児マヒ(ポリオ)は先進国で姿を消しており、日本でも1970年代にポリオ発生は2件しか出ていない。天然痘も1970年代終わりには発生はゼロとなり、人類は一安心して、感染症はもうないものだと思いました。
ところが、エイズが1980年代の初めに突然現れました。日本でも数年前、大腸菌O157による出血性腸炎が関西で大流行し、新聞などで大々的に取り上げられました。イギリスでは、1987年に狂牛病が大流行し、欧州ではイギリスからの食肉の輸入禁止を行い、イギリス政府は大量の牛を殺しました。その他、アフリカではエボラ出血熱の流行、マールブルグ病の出現など、新たにいくつもの疾患が認識されました。(参照:新興・再興感染症マップ)
全世界には30種近くの新興・再興感染症があります。これらの病気は、日本にいる私たちに大いに関係あります。例えば、昨年の夏、ドイツの青年がコートジボアールから帰国後、出血性熱病と診断され、エボラ出血熱の疑いと大いに恐怖されました。結局は黄熱でしたが、このように交通手段が発達している世の中では、感染症の輸入の恐怖もあります。MRSAというのは、人間が作り出した新興感染症で、抗生物質の使い方を誤ると、菌が抗生物質について耐性を持ってしまい、抗生物質を使用しても効かないということになります。また、例えば、アメリカがフィリピンから輸入したカニクイザルからエボラ出血熱のウイルスを発見して、大騒ぎしたことがあります。結局は、このときのウイルスはヒトへの病原性はないとみなされたのですが、このようにある一定の地域にしかない疾患だと思われていた疾患が飛び火して、世界のあらゆる所で起こる可能性が大いにあります。
このように世界は、新興・再興感染症に大いに注意を払う必要があります。その対策の一つとして、厚生省の研究として、新興再興感染症の定点観測網の構築について研究を行っています。国立熊本病院とACIH((財)国際保健医療交流センター)にて途上国専門家を対象に行っているJICAの研修の参加者に帰国後、定点として協力してくれないかを依頼しました。現在35ヶ国の87定点ができています。これらの定点から3ヶ月に1回、感染症情報が届いて、それらを厚生省やWHO、米国CDCに報告するというシステムを作っています。今後はこのシステムを更に発達させる予定です。
新興・再興感染症は範囲が広く、変化に富んでいますが、その対策として、ワクチンについて大谷明先生に、エイズについて原田信二先生にお話を伺います。

ワクチンの歴史は、イギリスのエドワード・ジェンナー氏が種痘を開発した200年前からである。その短い歴史を振り返ると、このジェンナーの種痘から始まり、病原体の発見から毒素の毒性をなくして作ったワクチン(ジフテリアや破傷風のトキソイドなど)、ウイルスを培養することに成功し、その培養されたウイルスから毒性の弱いウイルスを使ったウイルスワクチン(ポリオ、麻疹、風疹など)、そして1970年代から遺伝子組換えによるワクチン(B型肝炎など)の開発、という歴史がある。
終戦直後、日本は今のアフリカや東南アジアより更にひどい状態で、チフス、天然痘、コレラ、赤痢などの感染症が蔓延していたが、今の日本では、感染症は殆ど消失したか、または全くなくなった。その理由としては、環境衛生の改善も挙げられるが、予防接種も大きな威力を発揮している。
感染症対策には2つの武器がある。1つは抗生物質であり、もう1つはワクチンである。抗生物質は病気になってから治療するものであり、ワクチンは病気にかからないようにする。その点ではワクチンが一歩先を行っていると言えるだろう。しかし、今、日本ではワクチンの大切さが忘れられているのではないだろうか。
ワクチンは大きく分けると2つに分けられ、1つは病原体をホルマリンや熱で殺して毒性をなくした不活化ワクチン(ジフテリア、コレラ、百日咳、インフルエンザ、日本脳炎など)、もう1つは病原体を生きたまま毒性を弱めて使用する生ワクチン(天然痘、ポリオ、麻疹、風疹など)である。この2つのワクチンは全く違った免疫反応を誘導する。ワクチンを与えられると人間の身体の防衛反応が呼び起こされる。その主体はリンパ球で、このリンパ球が抗体を作り、ウイルスが増えないように取込む、または毒素を中和してしまう、または菌にくっついてその力を弱めてマクロファージが始末してしまうようにする。もう1つの免疫に、細胞免疫があり、T細胞がワクチンによって誘導され、ウイルスに感染した細胞を壊す、あるいはマクロファージを活性化させる。不活化ワクチンは主として抗体を作らせる。生ワクチンは抗体も作らせるが、細胞免疫をも誘導する。2つのワクチンを比べてみると、生ワクチンは1回の投与で長期の免疫ができるが、不活化ワクチンはインフルエンザワクチンに見るように免疫は一時的である。そして、生ワクチンは不活化ワクチンに比べて開発が難しいが、生きたウイルスを増やすだけなので、増産にかかる費用が低い。しかし、不活化ワクチンの副反応は、生ワクチンと違って予見できる範囲である。
ワクチンを考える際、副反応を見逃すわけには行かない。またその使い方が重要な問題であるのを忘れがちである。
例えば、日本脳炎ワクチンをとっても、蕁麻疹が起きたり、時に脳症が起こったりしている。また価格が高い上、頻繁に接種しなくてはいけない。最近ではおたふくかぜワクチンの無菌性髄膜炎で非常に社会が動揺し、そのため、せっかく開発した3種混合・MMRワクチンが市場から姿を消した。
副反応の内容には、ワクチン(抗原物質)そのものによるものと、その添加物によるものの2つに分けられる。また、ワクチンで副反応を起こす人とそうでない人が出てくる。おたふくかぜワクチンの副反応として、無菌性髄膜炎であれば1000人に1人、種痘のワクチンの副反応の脳炎は100万に1人。遺伝的特異体質があり、この場合、予知することが難しい。しかしジンマシンのようなアレルギー反応がこのごろよく出ている。かつてはアレルギーの問題はないと言われていたワクチンの中に入っているゼラチンがアレルギーの非常に大きな問題となっている。副反応無しが理想的だが、副反応が皆無のワクチンはない。問題は障害の程度と頻度であり、これら副反応についての情報の公開と副反応の追跡調査をやることが非常に大事である。
21世紀は治療より予防の時代である。予防は治療に勝る疾病対策である。200年たって科学の進歩した今、ワクチンは感染症予防だけではない。人間の身体の免疫反応を引き起こし、うまく誘導する薬剤であり、感染症はその1つのターゲットである。21世紀には、感染症のほかにアレルギー疾患、自己免疫病、癌がワクチンのターゲットとなるだろう。現在開発中のワクチンには、マラリアワクチン、BCGで十分に予防ができない肺結核などに対する結核ワクチン、AIDSのワクチン、鼻に投与するインフルエンザワクチン、O157などの腸管毒性出血性大腸菌感染症のワクチンなどが挙げられる。改良すべきワクチンとしては、MMRワクチン、日本脳炎ワクチン、数種を混ぜて1度に行うワクチンなどである。また癌ワクチンの研究も進んでいる。ワクチンを世に出すには、日本及び世界の基準に従って、いろいろな安全性についての検査を行い、更にその後の副作用のモニタリングを義務付けられている。
現在の日本のワクチン事情、問題点を見ると、今後は、国・地方自治体により、子どもだけでなくお年寄り、一般成人誰でもワクチン接種を受けやすい体制作りを望む。
「AIDS 日本は果たして安全か」というテーマだが、その問いの答えは「安全ではありません」。日本では既に5000名の人が感染していると公的に報告されており、最近になって多くの人が感染している。熊本でも安全ではない。現在、9名或いは10名程度の感染が公的に報告され、この数は昨年に比べると倍になっているとのことで、熊本でもHIV、エイズのウイルスに感染していると言う事実がある。
日本はエイズに対し安全ではないが、この病気はある意味では自己防衛しやすいウイルスである。空気感染或いは接触感染によるインフルエンザウイルスの例をとると、例えば1918年に流行したインフルエンザウイルスは、非常に病原性が高く、死亡率も高かった。当時は第1次世界大戦中だが、戦争で亡くなった人の数よりもはるかに多くの人が亡くなったと言われている。エイズはそれほど感染力が強くない。そして、今、1番言われているのは、エイズがセックスによってうつる病気であるということである。この一点をきちんと学習し、それによって自分を守る対策を取れば、エイズウイルスから自分を守ることができると考えられている。そのため、インフルエンザに比べるとエイズは自分を守りやすい病気と言われている。
ところが問題がある。エイズが性行為感染症であるが、たとえ薬で治すことができる性行為感染症であってもいまだかつてその病原体を駆逐したことがない。人間は性行為によって移る病原体をなかなか根絶するのが難しいようだ。
私は、エイズを一言で表すなら「複雑」という言葉で表す。理由はいくつかある。エイズの問題が社会に起こす非常に複雑な問題は、いろいろな報道でご存知だろう。また、エイズのウイルスは非常に変異を起こしやすい、即ち遺伝子が変わりやすい。そのためいろいろな種類のウイルスが存在する。感染後、ウイルスは細胞の中で増えるのだが、その様式も複雑である。そしてウイルスに感染して病気になるのだが、その病気も非常に複雑でいろいろな症状が出てくる。
エイズウイルスが細胞に感染したらどうなるか。試験管の中では、きれいな均一な細胞が、感染によって固まって、風船のような変化、風船状の変性を起こす現象が見られる。恐らく、似た現象が身体の中で起こるのだろう。エイズウイルスが身体に入ると免疫に重要な細胞を殺し、その結果、身体の抵抗力である免疫が下がっていく。そのためにいろいろな病気が起こると考えられる。ここではシンプルに言ったが、エイズは複雑な病気なので、このようなシンプルな病態、ストーリーではなく、いろいろなバリエーション、複雑な病態があるだろうと言われている。
エイズのウイルスに感染してもすぐに病気にはならない。時には感染してカゼのような症状を起こす人もいると言われているが、そのあとは10年或いは15年という非常に長い期間、殆ど症状がないと言われている。これがエイズの問題を厄介にしている。この無症候期のあと、さまざまな病気が出てくる。例えば、あざのようなものができるKaposi肉腫という一種の癌のようなものがある。これはヘルペスウイルスの一種によって起こると考えられている。また、頭の中でリンパ球が癌化して脳腫瘍のようなものができる。その他、さまざまな感染症が起こる。熊本の最初のケースではカリニ肺炎(Pneumocysitis carinii)にかかっていた。また、口や食道の中にカビが生えて、物を食べるのも苦痛だと言うこともある。目の中である種のウイルスが活性化され、網膜炎を起こし失明する。このようにエイズという病気は複雑で、さまざまな癌や感染症が起こる。
エイズは治すことが難しいと言われている。現在、エイズウイルスが細胞の中で増えるのを止める抗ウイルス剤が開発されている。エイズ患者だけでなくHIVに感染してすぐの人も抗ウイルス剤を投与されることで、できるだけ発症を遅らせようとしている。しかし、エイズウイルスは変異しやすいため、薬の効かない耐性ウイルスができやすい。また、副作用の問題があり、理想的な治療法の開発の必要性が言われている。その理想的な方法として、ワクチンが挙げられている。ワクチンには感染を防ぐワクチンと治療用のワクチンがある。今まで治療用のワクチンで人間に応用されたものはないが、エイズの場合はこの治療用のワクチンが必要だと言われており、さまざまな研究が行われているが、残念ながらヒトに応用できるワクチンはまだである。エイズの完璧な治療法にはまだ時間が必要である。
現在、世界で4000万人、サハラ砂漠以南のアフリカでは特にひどく、2000万から3000万の人が感染していると言われている。また、インド、タイも感染者が多いと言われており、人口の多い中国でも感染者が増えていることが問題となっている。一方、日本では5000人の感染者が報告されている。これは世界的レベルでは少数だが、年間400から500人の数で増えている。ある人はこのまま欧米なみに感染者が増えるのではないかと言われている。日本では、殆どの場合、エイズに感染していると分るのが発症してからが多い。無症候期の人が自分がエイズウイルスに感染しているのを知らないで生活していることが、日本の大きな問題として挙げられる。
エイズの教育では、まずエイズウイルスがどのように感染するかを知ることが重要である。エイズは殆どの場合性行為によって感染する。また血液感染が挙げられる。以前は輸血、血液製剤で感染することがあった。他に針刺し事故から感染するという事例も欧米であった。他に母子感染がある。母親が感染していると約30%の確率で子どもにこのウイルスが移ると言われている。これら3つの経路があるが、世界的に70〜80%が性的接触から感染していると言われている。
そこで性行為感染症としてのエイズの教育に関し、世界にいろいろなポスターが作られているが、必ず述べられていることが"always with condom"、コンドームを使おうと言うことである。コンドームは学問的にも明らかにエイズや他の性行為感染症の伝播を防ぐことが分っており、非常に有効な手段である。ただ、このような教育が本当に一般の人に届いているのか調査すべきである。
数年前から熊本市保健所感染症対策課を中心にいろいろなアンケートを取って調査している。去年行ったデータ、1400人のアンケートで、エイズに対する興味を聞いた。そこでは、殆どの人がエイズを自分とは関係ない病気、或いは可能性があると思うがまだ身近に考えていない、と答えた。熊本ではまだ9名しか感染が報告されていないので確かに身近ではないが、身近でない今だからこそエイズの知識を持って感染症を増やさないようにすることが大事である。アンケートの結果、100%近くの人がコンドームがエイズの予防に必要と答えた。しかし、いろいろな質問をすると問題点が見つかった。例えば、現在最も高いHIVの感染経路は男女間のセックスである、と正解を答えたのが約半分だった。他の性病にかかっている場合はエイズにかかりやすいと正解を答えたのは20%もいなかった。じつはこれが非常に大きな問題である。このようにコンドームのことをよく知っていても性行為感染症としてのエイズの知識が欠けたものがあると言わざるを得ない。エイズの場合はセックスライフの問題にもかかってくる。特定のパートナーと関係を持っている人の割合を調べると、平均約60%が特定のパートナーとセックスの経験があると答えた。この中でコンドームの使用を聞くと「常に使用している」と答えたのが約40%であり、約60%近くがかなりの頻度でコンドームを使用していることが分った。不特定のパートナーを持っていると答えた人が20%、多い年代では50%近くまでいた。このグループはエイズの感染率が高いためエイズの知識が必要であり、コンドームの使用率が高いべきである。コンドームの使用を聞くと、約60%が使用しているが、不特定のパートナーをもっている率が高かった20代男性に限ると、コンドームの使用率が50%以下だった。このデータから、コンドームの使用が必ずしもエイズや性行為感染症を念頭に置いたものではないことが分る。この問題はピルの解禁後も大きな問題として取り上げられるだろう。
エイズだけでなく性行為感染症を念頭に置いた上で、私たちはどのようなセックスをすべきか個人個人が十分に考え、そしてその考えを広げていく必要がある。そのようなことが徹底されなくてはエイズの問題の解決が難しい。恐らくそのようなことがないと、日本もエイズに対して安全であると言えないだろう。
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[最終更新日:2000年3月24日] |
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